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広島高等裁判所松江支部 昭和31年(ラ)9号 決定

抗告人 安田幸繁

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告理由の要旨は「原決定は抗告人のなした退隠料請求権に対する差押命令の申請を却下したが、その理由とするところは本件退隠料請求権は米子市給与金条例により譲渡を禁じられているので法律上差押性を存しないというにある。然しながら右市条例は自治体に於て制定された自治法の準則であつて民事訴訟法第六一八条に優先適用さるべき法規ではない。強いて差押上制限を受くべきものなりとするも民事訴訟法第六一八条第一項第五号第二項と同等な程度に於ては差押を許容せらるべきものである。(抗告人が本件に於て差押を申請したのは、債務者藤原浩が第三債務者たる米子市から毎年支給せられる退隠料金二万三〇〇四円の内その四分の一に相当する五七五一円に対してであつて前掲法条の限度である)然るに原裁判所が前記理由のもとに抗告人の申請を却下したのは明に不法である」というにある。

よつて考えるに、米子市給与金条例によれば同市職員にして一定の永続勤務者が退職するとき或は職務による傷病のため職に堪えずして退職するときは爾後毎年(但し年額を四分し四回に)一定の金額を退隠料名下に支給せられ、これを受くる権利は譲渡を禁止せられておるのであつて、右は同じく公務員でありながら国家公務員については恩給法の適用があるにかかわらず、地方公務員にはその適用がないところから、国家公務員に対する恩給と同趣旨の給与金として市条例により市職員の退職者に支給せられるものであることが了知せられる。

さすれば右退隠料を受くる権利は一身に専属し他に譲渡を許されない性質のものと解するのが相当である。従つて右退隠料を受くる債権については差押を許されないこと明である。(昭和二年六月一五日大審院判例参照)然らば原決定が本件退隠料請求権につき差押を許されないものと判断して申請を却下したのは結局相当であつて本件抗告は理由がない。

よつて主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 岡田建治 裁判官 組原政男 裁判官 黒川四海)

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